GUIDE INTERVIEW
鹿追町
然別湖ネイチャーセンター 北海道知事認定アウトドアガイド
齋藤夏月(さいとうなつき)さん
[東京都→鹿追町]

然別湖の四季が与えてくれる
アイデアの素を氷雪で形に

 来年で第37回を迎える冬のイベント「しかりべつ湖コタン」。厳冬期に湖上に現れ、暖かくなると消えていくひと冬だけの「幻の村」を、デザイナーとして長年支える人がいます。日本人では唯一、スウェーデンのアイスホテルの制作にも携わるというその人は、生活の拠点としている然別湖で何を感じ、何から発想を得ているのでしょうか。気持ちのよい風が渡る然別湖畔で、彼女のこれまでとこれからをじっくりと聞いてみました。

Profile

齋藤 夏月さん Natsuki Saito
東京都生まれ。生徒の個性と意欲を尊重する自由の森学園中学校・高等学校を卒業。学生時代から木工や染色、絵画などに親しんできた。夫で同じく然別湖ネイチャーセンターに勤める慎吾さんとの間に小学校1年生の女の子をもつ子育て世代。余暇は娘と一緒に湖や森、川などで遊ぶ。
  • ものづくりが大好きな都会の少女が
    初めて出合った北海道の自然

    然別湖ネイチャーセンターの受付奥から現れた齋藤夏月さん。「いつも通りの服装ですけど、これでいいですか?」。柔らかで、かつ快活そうな口調から、気さくな人柄がにじみ出てきます。

    冬の間だけ、分厚い氷が張った然別湖上に出現する村「しかりべつ湖コタン」。雪氷を固めたブロックでつくった宿泊施設(イグルー)に、グラスまでもが氷でできたアイスバー、幻想的な雰囲気のアイスチャペルなどが並び、その一角には酷寒の中で湯気を立てる露天風呂まで!これらのデザインを20年近くに渡って手がけているのが齋藤さんなのです。「雪と氷を使って、然別湖の自然を表現しています」。

    齋藤さんがこの地を初めて訪れたのは中学3年生の修学旅行の時。都会育ちの彼女にとって、「広々とした空や、近くにある扇ヶ原展望台から眺めた十勝の風景が印象深く、夜の静寂の合間に聞こえてくるフクロウの声と、見渡す限りの星空も心に響いた」と言います。

    然別湖は標高810mと、北海道内でもっとも高いところにある湖。静かな湖面にカヌーで漕ぎ出せば、時が経つのを忘れそう
  • 「太陽の光をたくさん浴びたい!」
    進学志望から一転、ネイチャーガイドに

    その後も中学・高校の体験学習を通じて毎年のように然別湖で過ごす機会を得ながら、大学受験の時期を迎えたころ。ものづくりが好きで美大を進路に選びましたが、1日の大半をアトリエにこもりきりで過ごすうち、「美術は好きだけれど太陽の光を浴びたい」と思うように。

    「たまたま然別湖ネイチャーセンターでボランティアスタッフを募集するテレビ中継を目にしたその場で、受験を取りやめ、然別湖行きを決めました」。

    ボランティア終了後はアルバイトとして経験を積み、晴れて正社員に。美術の知識を活かし、然別湖コタンでつくる建物の図面を任されるようになったのは2000年代初頭でした。

    夏季はカナディアンカヌーやシーカヤック、ガイドウォークといったプログラムの案内役を務めています!
  • スウェーデンで認められたデザインセンス
    12年連続でアイスホテルの一室を制作

    2004年、一つの転機が訪れます。氷建築の技術を高めるため、のちに夫となる慎吾さんとともに、スウェーデンのユッカスヤルビへ。当地の名物イベント・アイスホテル制作に、研修生として参加することになったのです。現地では、彫刻家、デザイナー、画家といった世界中のアーティストがさまざまな工夫を凝らして、実際に客が泊まる部屋をつくります。「私たち研修生の役目はその人たちのお手伝い。ベテランからはテクニックを学び、初出展者とは、アイデアを出し合いながら作業を進め、勉強になりました」。

    翌年には自らコンペに応募し、見事採用。以来12年間、齋藤さん夫婦は日本人唯一の出展アーティストとして、繊細なデザインや細密な技術で高い評価を得ています。

    右)制作中の一コマ。出展者同士で協力し合う場面もしばしば。照明の位置を調整しながら、最適な表現方法を探っている
    左)2013~2014年に催されたICEHOTELで齋藤さん夫婦が出展したArt Suite Room「FROST FLOWER」。ベッドにはトナカイの革が敷かれ、快適に過ごせる
  • 2つの地域の違いが新たな発想を導く
    冬だけ楽しめる作品が持つ美の力

    「しかりべつ湖コタンとアイスホテルでは雪や氷の質が違うので、それぞれにできることやつくる楽しみが違います」と、齋藤さん。スウェーデンでは、結氷したトルネ川から切り出した巨大な氷を重機で運び出して使いますが、然別湖では手作業で運べるサイズの氷や、雪に水を加えて固めたブロックを使います。「然別湖では大きい物はつくれませんが、手づくりの分、少しトリッキーな工夫ができます。1カ所に留まらず、両方を行き来することで新しい発想も出てくるので、いいとこどりでラッキーという感じですね」。制作だけに集中するアイスホテルに対し、コタンでは、準備から運営、後片付けまで携われるのも楽しいそう。「春になると溶けて湖水に還るコタンは『限りある美』。さみしく思うこともありますが、物として残るのではなく、人の心に残るのもいいですよね」と、にっこり。

    右)湖がすっかり凍りついた然別湖の上に出現した然別湖コタン。背景には、然別湖を象徴する風景の一つ、天望山が見える
    左)源泉かけ流しの氷上露天風呂。氷点下の外気で冷えた肌が、約42℃の温泉でじっくりと温まる。混浴だが女性専用となる時間もある
  • 普段の暮らしに満ち溢れた美しさを
    然別湖を訪れる人々にも伝えたい

    然別湖でも、スウェーデンでも、齋藤さん夫婦が好んでモチーフにするのは「自然」。冷たい雪や氷を使いながらも、どこか温かみを感じさせるデザインやアイデアには、ネイチャーガイドとして多数の来訪者を迎える側のもてなしの心が表れているのかもしれません。

    夏季はカナディアンカヌーやシーカヤック、ガイドウォークといったプログラムの案内役を務める日々。四季を通じて目にする自然から、インスピレーションを得ることも多いといいます。「周辺では天然記念物や固有種といった珍しい動植物も見られますが、彼らは普通に生きているだけ。お客様には、私が東京から来た時、然別湖の日常的な自然風景に触れて感じた、私にとっての『非日常的』な驚きを素直に伝えたい」。

    繊細に、かつ美しくつくり上げる「アイスチャペル」
  • ガイドブックには載っていない
    自分だけのお気に入りを見つけてほしい

    春の新緑、夏の水辺、秋の紅葉、冬の雪景色と、季節によってまったく異なる表情を見せる然別湖の風景。これからも、好きなものづくりを続けながら、自然に寄り添って暮らしていきたいと、齋藤さんは言います。ふと見上げた空の美しさ、道端に咲く花々のかわいらしさ…そういったさりげない喜びを、ここを訪れる旅人と共有する時間も大切なひととき。

    「旅行で来るとあれをしなきゃ、これを食べなきゃとせわしなくなりがちですが、気に入った景色に足を止めたり、花をゆっくり観賞したりするのもいい思い出になります。北海道は、そういったご褒美みたいな時間や風景がたくさんもらえるところですよ」。

    30年以上もの間、形を変えて毎年つくられる「アイスバー」
然別湖ネイチャーセンター
住所
鹿追町然別湖畔
電話番号
0156-69-8181
営業時間
予約受付9時~18時
休業日
なし
アクセス
新千歳空港からクルマで約2時間40分/とかち帯広空港からクルマで約1時間40分

〈アクティビティ〉

  • しかりべつ湖コタン/毎年1月末~3月下旬、見学無料(各種体験料別途)
  • 氷の彫刻づくり/冬期のみ、1ブロック3,000円
  • カナディアンカヌー/夏期のみ、大人4,000円、中・高生3,000円、小学生2,000円ほか
  • 原生林ガイドウォーク/通年、大人3,000円、小学生2,000円
取材スタッフこぼれ話へ